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okutaniのTwitter以上, ブログ未満な文章

インターネットの君と僕

2024.07.01

はっぴいえんどの曲を聴くたびに、あの子のことを思い出す。

顔も名前も年齢も知らない。

ましてや住んでいる場所や、どんな職業だとか、どんな体型だったか、とか、僕は最後までなにも知らなかった。

いつごろ知り合って、いつごろ連絡を取らなくなったかも、もう覚えていない。

たぶん、どこかの掲示板で連絡先を交換したんだと思う。そして、よく電話をしていた。

「はっぴいえんどが好き」

あの子は嬉しそうに、僕に好きな音楽の話をしてくれた。

それから、僕ははっぴいえんどをよく聴くようになった。今でもよく聴く。

その子が「NUMBER GIRLも好き」って言っていたのを思い出し、最近やっと、それが分かるようになった。

ちゃんとしたことは、いまだに、なにひとつ分からないけど、音楽の良さだけは、やっと、分かるようになった。

***

またあるとき、マッチングアプリでとある子と知り合った。

新宿歌舞伎町、安いチェーンの飲み屋、レモンサワー。

時計じかけのオレンジ、ダンサーインザダーク、レナードの朝、ミリオンダラーベイビー…

レモンサワーを追加で頼みながら、嬉しそうに彼女は僕に好きな映画を教えてくれた。

教えてくれた映画はぜんぶ観た。

ミリオンダラーベイビーはぜんぜん好きになれなかったけど、それ以外の映画は、今、僕の人生の宝物になっている。

その日の帰り道、彼女は僕に「ねえ。ホテルに誘ったりしないの?」と、言った。

小雨の中、小走りで僕たちは新宿駅東口に向かった。

駅前。彼女は「ねえ。キスもしないんだ」と、やはり、僕をからかうように、笑いながら言った。

僕は、その子のことをどこか尊敬していた。

僕の知らない世界を、嬉しそうに教えてくれるその子に、心ひかれていた。

キスも、ハグも、手すら繋ぎもせず、僕は電車に飛び乗り、窓に流れる街と小雨を、ぼんやり眺めながら帰った。

あるとき、とある映画のチケットが取れた。しかも、主演の方のトークショー付きのチケットだ。

その子を誘って、一緒に映画を観た。

尊敬するその子と一緒に、僕が取った映画をふたりで観れたことが、嬉しかった。

その日以降、彼女とは連絡が取れなくなった。

いまだに、僕は一本映画を観ると、ふと、その子のことを思い出す。

6, 7年前のちょっとした出来事なのに、僕はいまだに思い出す。

***

そういえば、前の彼女、前の前の彼女も、マッチングアプリ ― インターネットで出会った。

リアルのつながりが、なにひとつ無い、ふだん生活していたら関わることのない、赤の他人。

インターネットを介して、ダイレクトに、知り合い、それが自分の人生の中に、生き続けている。

そんなこと、今では一般的ではあるんだけど、それでも僕は、どこかその不思議な感覚と、人が持つ普遍的ななにかを、感じざるをえない。

最近、インターネットではないんだけど、競艇について、とても楽しそうに僕に語ってくれる子と出会った。

僕は競艇についてなにひとつ興味はなかったんだけど、楽しそうに、横でお酒を飲みながら語るその子と話した夜は、とても楽しかった。

ようするに... すこしでも僕の人生に関わってくれて、良い影響を与えてくれて、ありがとう。ってことが言いたいんだなって、この文章を書いていて思った。

インターネットでも、リアルでも、人間、本質的なところはなにも変わらない。

性善説と、人生を信じて、生きていきたい。